そうだ珈琲屋をやろう

~やまびより珈琲ができるまで~

珈琲屋をはじめたい。
それには何が必要か。
ドリップ道具、焙煎機、焙煎技術…

まずは色々な珈琲屋さんを飲み歩こう。
思い立ったその日から、会社が休みの日には気になるお店をはしごして、多いときは1日10杯くらい飲み歩いた。

沢山回っているうちに、自分の好みの珈琲や好きなお店の雰囲気が分かってくる。
珈琲の本を読み漁り、色々なお店の豆を買ってみて、飲み比べをした。

そのうち小さな手回し焙煎機を買って、家で焙煎を始めた。
何回もやってるうちに、もうちょっと大きいのが欲しくなり、鉄製の500g手回し焙煎機を買った。
それで焙煎した豆を、友人や会社の人に配って飲んでもらった。

そんなことを何ヶ月か続けた。
そして。
次はいよいよ、焙煎工房が欲しくなった。
気兼ねなく焙煎作業ができて、ゆくゆくは実店舗としても活用できる場所。

そんな場所を飯能市仲町の路地裏に見つけ、DIY経験ゼロの素人が、無謀にも店舗内装の自作に乗り出したのだった…
最初はこんな感じだった。
がらんどう。何にもなくて、あるのは湯沸かし器と古い流しのみ。
ここを焙煎工房にするべく、どのような内装にするか…頭に描いたイメージは、「昔の作業場」だった。

朴訥としていて、でも何だか落ち着く…そうだ、ジブリの映画に出てくるような作業場みたいな雰囲気にしたいな。まずは壁に漆喰を塗ることから始めてみよう。

初めての漆喰塗り、初めてのコテ。
真冬で気温が0℃近い中、白い息を吐きながら、ひたすら漆喰をポテポテ塗っていく。
1週間かけて壁に漆喰を塗ったら、次は天井のベニヤ張りに取りかかる。

ホームセンターで正方形のベニヤ板を大量に買ってきて、柿渋で色を塗って、端から順番に張っていく。
張り方はネットで調べて、床材用の強力接着剤と強力両面テープの2段重ねで行くことにした。

形が合わないところはベニヤをカットしなければならない。カッターでカットして、両面テープを貼って、接着剤を塗って、天井に張りつけて、仮止めの釘を打つ…その繰り返し。

言葉で書くとカンタンだが、ひとつひとつの作業に集中力を要し、時間がかかる。
天井に張るのもひと苦労だ。重力に逆らって仕事をすることの大変さを知った。

精神的にも体力的にも消耗し、最初の1列を張ったところで正直、なんてことを始めてしまったんだ…と思った。
1列4枚、天井全体で8列。合計32枚のベニヤ板を半月ほどかけて張り終えたところで、キッチン周りの左官と天井のダクトレールの取り付けを業者さんにお願いした。

本当は自分で全部やりたいところだったが、左官と電気系統だけはプロにおまかせしないといけない。

やはり職人さんは手際がいい。
仕事がサクサク終わっていく。
でも手が遅くても、自分でやれば自分がやりたい所までとことんできる。
さて次はいよいよメインイベントのカウンター作りだ。

カウンターはコンクリートブロックを積み重ねて、その上に木の天板を張ることにした。
石と木材を合わせて、無機質さの中にも暖かみのある空間にしたかったから。

カウンターはお店の中でも一番目立つ存在なので、ちゃんと図面を書いて、目張りテープを張って慎重にブロックを配置していく。
コンクリートの床にハンマードリルで穴を開け、鉄筋棒を打ち込んでブロックの穴に通し、セメントを流し込んでいく。

もちろん全部初めてやる作業。やり方はネットで調べたり、ホームセンターの人に聞いたり、知り合いの職人さんに教えてもらったりした。

とにかく全部手探りで、思うように行かないことや失敗が沢山あった。
横に糸を張って、まっすぐになるように1つずつ積んでいき、水平器を使って1回1回水平を確認する。
傾いていればやり直し。根気と集中力のいる作業だ。

職人さんがやっている動画を見ると、いとも簡単そうにすごいスピードでやっていく。
とても真似できない…
そしてカウンター天板作り。

ホームセンターで板を探していたら、ちょうどいい大きさの一枚板が見つかった。厚みがちょっと薄かったが、2×4材で補強して強度を保つことにした。

2×4材を3本並べて、その上に天板を乗せて固定する。
木材は全てワトコオイルで塗装した。
カウンターと焙煎スペース完成。

後ろのキッチン壁にもタイルを張る。
タイルはホームセンターで買ってきて、タイル用接着剤で壁にペタペタ貼っていき、すき間を漆喰で埋めて、最後に水でゴシゴシ洗って終了。
ようやく落ち着いて焙煎ができる環境になった。焙煎スペースに物置き用の柱を作って、作業がしやすいようにする。

ここまで来るとほぼ完成。やり始めからまるまる4ヶ月くらいかかった。



正直なところ、大変な作業ばかりでやめたいと思ったことは1度や2度ではなかったが、辛かったことは時間がたてば忘れてしまう。

毎日が闘いのような日々だったけど、今お客様がこの場所に訪ねてきてくださる日々を送っていると、あの頃の大変さが嘘みたいに思えてくる。

これからもこの場所から笑顔が生まれたらいいな…と、笑顔の苦手な焙煎士は思うのである。

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